発達障害という概念は、
ここ15年ほどの間に急速に広まった。
入学試験や就職試験で、
応募者のコミュニケーション能力を測るようになってきたのは、
そのせいもあるだろう。
それ以前は、
いまでいう発達障害だろう人たちは「変わり者」という認識で、
職場に普通に紛れていた。
今も昔も、
どこの職場でも業務がこなせていれば、
発達障害であろうがあるまいが問題は起きない。
けれども、
当人が業務がこなせず職場が扱いに苦慮する場合、
問題となる。
発達障害という概念がまだ浸透していなかった時代、
私はいくつかの職場を経験した。
当時、
いまでいう発達障害であろう人たちに対して職場が様々な工夫を凝らしていた
のを思い出す。
切り出した仕事を担当していたAさん
真面目で物静かな性格のAさんは、
事務仕事のミスが多すぎる(お金の計算は間違いだらけ・タイプミスだらけ)・電話の応対が下手・事務処理が遅すぎるゆえに、
事務部門が扱いに困っていた。
そこで、事務部門の管理職は単純作業をAさんに集約することにした。
具体的には、
事務スタッフが各自行っていたラベル貼り・封筒への書類挿入などをAさんに集約させ、
Aさんがシール貼りや封筒への書類挿入を一手に引き受けることになった。
現在、大企業の中には、
こういった単純作業を切り出して集約し、
障害者が一手におこなっているところもあるらしい。
単純作業を切り出してAさんに集約させていたのは、
いわば企業内就労支援のようなものだ。
いま思えば、
中小企業が企業内就労支援をしていたなんて、
時代の先端を行っていたのだ。
ただ、大企業ではない中小零細企業では従業員の数が少ないので、
シール貼りや封筒への書類挿入だけではAさんの業務は埋まらなかった。
それゆえ、事務部門のトップはAさんに与える別の仕事を探すのに苦慮していた。
やる仕事がなかったBさん
設計部門のBさんは、
実務が覚えられない・設備を上手く扱えない・コミュニケーションをとるのが苦手という理由で、
Bさんが所属する部署の課長はBさんの扱いに苦慮していた。
課長がBさんに直接、装置の使い方を教えることもあった。
課長はいつもBさんに与える仕事を探していた。
Bさんが担当できる業務はあるか、課長は他の部署によく相談していた。
企業内就労支援
AさんもBさんも正社員だった。
彼らに業務を与えて仕事を回すのが管理職の役目だから、
管理職はAさん・Bさんのための仕事を常に探していた。
昔はのんびりしていたものだ。
昔の企業では、
発達障害とおぼしき従業員(当時はそういう概念がなかったので、そう言われていなかった)に、
企業内で仕事を集約化させたり、
仕事を探してあげたりしていたのだ。
昔の日本企業では
企業内就労支援という仕組みが機能していた
のだ。
逆に言えば、
事実上の企業内就労支援ができるほど、当時は日本企業にゆとりがあった
ということだ。