東京都は2023年2月に行われる都立高校入試から、英語スピーキングテストを都立高校入試に導入する予定のようだ。
よって、来年(2023年)の2月に行われる都立高校の入試から、英語スピーキングテストの得点が入試の総合得点に加算される、ということだ。
東京都中学校英語スピーキングテストとは
東京都は、2023年2月の都立高校入試選抜から、英語スピーキングテストの得点結果を総合得点に追加することを予定している。
英語スピーキングテストは、学習指導要領の改訂に伴い、英語4技能(聞く・読む・話す・書く)のうち「話すこと」の能力を測ることを目的としている。
大学入試・英語民間試験の導入は廃止に
そもそも東京都中学校・英語スピーキングテストは、大学入試への英語民間試験の導入を見越して、東京都が都立高校入試に導入しようとしていた。
英語スピーキングテストについては2年前、当ブログでも取り上げている(都立高校入試のスピーキングテスト)。
その後、大学入試への英語民間試験導入に対して日本全国で反対の声が上がり、
結果、大学入試への英語民間試験の導入は中止になった。
大学入試への英語民間試験の導入が事実上凍結されたので、都立高校入試での英語スピーキングテストも中止になるとわたしは予想していたが、そうではなかった。
東京都中学校英語スピーキングテストの民間導入は着々と進んでいたのだ。
東京都中学校英語スピーキングテスト
東京都は2021年9月に中学校英語スピーキングテストの概要を公開している。
2022年度の中3生からスピーキングテスト開始(予定)
2023年2月都立高校入試への導入に先駆けて、2021年秋に、東京都の現・公立中学3年生について英語スピーキングテスト(プレテスト)を実施している。
なお2021年度の公立中学3年生については、英語スピーキングテストの評価結果は2022年2月の都立高校入試には反映されない。
英語スピーキングテストが都立高校入試に反映されるのは2022年度・中3生からの予定である。
英語スピーキングテストの概要
時期・会場・方法
東京都教育委員会のサイトによると、東京都中学校英語スピーキングテストは都立高校入試とは別に、都立高校入試よりも3か月ほど前に行われる。
英語スピーキングテストを都立高校入試よりもだいぶ前に行うのは、スピーキングテストゆえ、採点に時間がかかるためだろう。
・テスト時期:都立高校入試の約3か月前(2022/11/27・2022/12/18)
・テスト会場:外部会場
・テスト方法:受験者がイヤーマフを装着した状態でタブレットを操作し、解答音声をイヤホンマイクにを吹き込む。
中学校英語スピーキングテスト事業|東京都 (tokyo.lg.jp)より抜粋
得点
中学校英語スピーキングテスト事業|東京都 (tokyo.lg.jp)より抜粋
英語スピーキングテストの導入に伴い、2022年度(2023年実施)の都立高校入試では、現在の都立高校入試の総合得点1,000点満点に英語スピーキングテストの得点(20点満点)が加算される。
よって総合得点は1,000+20=1,020点となる。
東京都・英語スピーキングテストの問題点
大学入試への民間試験導入と同じ問題が起きる
東京都中学校英語スピーキングテストが実施されるとなると、大学入試への民間試験導入で懸念されたのと同じ問題が生じる。
この英語スピーキングテストでは、機械に録音された音声からスピーキング力が判断される。
音声のみでスピーキング力を判定することになるため、小さい頃から英会話教室に通ったり、英語圏で暮らした経験があったりなど、ネイティブに近い発音を身に付けている生徒が有利な試験になる。
この英語スピーキングテストはずばり「経済格差が反映される試験」ともいえる。
音声のみでスピーキング能力を測って良いのか
解答音声を機械に吹き込んでもらい、フィリピンに採点を委託すれば、安上がりにスピーキング力を測れると思ったのだろうが、音声のみでスピーキング力を計るのは無理があると個人的には思う。
スピーキング能力というのは、コミュニケーション能力と密接に関わっている。
スピーキング能力というのは音声だけで測れるものではないからだ、
英検3級以上の二次試験みたいに、採点者と実際に対面してスピーキング試験を行ったほうがずっとましだと思う。
採点をフィリピンに委託
試験の公平性は担保されるのか
東京都は、英語スピーキングテストを民間企業(ベネッセ)に委託する方向である。
そして、驚くべきことに、ベネッセは、英語スピーキングテストの採点をなんとフィリピンに委託するそうだ。
2022年秋に行われたプレテストではすでに、採点をフィリピンに委託した。
8万人もの受験者の採点を公平に行えるのだろうか。
試験の公益性は担保されるのか
(国内市場)
英語スピーキングテストを委託された企業側からすれば、東京都の中学英語スピーキングテストを足掛かりとして、今後、東京都以外の公立高校入試・私立中高の入試、さらには大学入試でも同様に、スピーキングテストの委託業務を拡大しようとするのは当然の流れだろう。
(海外市場)
業務拡大の可能性は国内だけでない。
企業側からすれば、少子化で日本国内の市場が飽和していることから、今後は海外市場を開拓したいと思うのは当然だろう。
中国政府で昨年「塾禁止令」を発令したことは以前も当ブログで触れた(中国政府が宿題を減らす政策を打ち出した)。
ゆえに教育産業は、中国以外の海外市場の開拓の模索を余儀なくされている。
英語スピーキングテストを委託された企業が、採点を委託するフィリピンとの関係を強化して、ゆくゆくはフィリピン国内での事業展開を視野にいれていると考えても不思議ではない。
「公立高校入試の採点」という公平性が求められる業務を一私企業の業務開拓に使ってほしくないと個人的には思う。
スピーキングテストを受けなくても問題ない?(2022年6月14日修正追記)
中学校英語スピーキングテスト事業|東京都 (tokyo.lg.jp)より抜粋
東京都教育委員会のサイトには、
「ESAT-Jを受験しなかった生徒も、東京都立高等学校入学者選抜において不利にならないように取り扱う。」
「当該不受験者の学力検査の英語の得点から、仮の「ESAT-Jの結果」を求め、総合得点に加算する。」
との記載がある。果たして、英語スピーキングテストの受験は任意なのか?「不受験者」とはどういう人が該当するのだろうか?
その回答が2022年5月26日付で公表された(↓)。
東京都立高等学校入学者選抜における東京都中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)結果の活用について|東京都教育委員会ホームページ (tokyo.lg.jp)
不受験者の取り扱い(2022年6月14日追記)
英語スピーキングテスト:受験は半ば強制的
東京都教育庁が2022年5月26日に公表された資料(東京都立高等学校入学者選抜における東京都中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)結果の活用について|東京都教育委員会ホームページ (tokyo.lg.jp))をみると、
不受験者とは、
①病気等やむを得ない事情で英語スピーキングテストが受験できなかった人
②私立中学校等に在籍していて英語スピーキングテストを受験する機会がなかった人、
と定義されている。
よって、自己判断で英語スピーキングテストを受けなかった人は「不受験者」には含まれない。
英語スピーキングテストの受験は義務ではないが、もし上述の①か②の理由によらず英語スピーキングテストを自主的に受験しなかった場合、英語スピーキングテストの配点20点分が0点になる、ということだ。
つまり、東京都の公立中学に通う中3生は英語スピーキングテストを半ば強制的に受験させられる、ということだ。
英語スピーキングテスト不受験者の得点の換算方法
また、病気などやむを得ない理由で英語スピーキングテストを受験しなかった生徒の得点の換算方法についても、2022年5月26日に東京都教育庁が公表した資料に公表されている(東京都立高等学校入学者選抜における東京都中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)結果の活用について|東京都教育委員会ホームページ (tokyo.lg.jp))。さらなる詳細は別紙にされている。
上の資料を要約すると、
英語スピーキングテスト不受験者が受験する都立高校において、
その不受験者の英語学力検査の点数と同点である他の生徒が獲得した英語スピーキングテストの点数の平均が、その不受験者の英語スピーキングテストの点数になる、
ということだ。
引用:東京都立高等学校入学者選抜における東京都中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)結果の活用について|東京都教育委員会ホームページ (tokyo.lg.jp)
上の表は、英語スピーキングテスト不受験者が、都立高校入試の英語学力検査で75点をとった場合を例示している。この不受験者が受験した都立高校において、英語学力検査で同じ75点をとった生徒の英語スピーキングテストの点数の平均が、その不受験者の英語スピーキングテストの得点となる。
英語スピーキングテスト不受験者の点数を換算するにあたり「同一の都立高校のなかで同じ点数をとった生徒の平均」としたのは、自校作成問題を出題する都立高校に配慮したのだろう。
ただ、ほかの生徒がとった点数が自分の点数とみなされるのは、なんだかおかしな話だ。
英語学力検査が同点だった生徒がたまたま、スピーキングが苦手な(得意な)生徒ばかりだったら、不受験者の英語スピーキングテストの点数が不受験者の実力より低い(高い)点数になる可能性がある。
東京都教育庁はなぜここまでして英語スピーキングテストを導入したいのか謎だ。
最後に
昨年(2021年)教科書が改訂されたため、今の中学生は英語の学習内容が前倒しになっており、英語の授業進度は以前よりも速くなっている。
たとえば、今まで中3で学習していた現在完了を現在は中2で学習している。
さらに追い討ちをかけるのように、今の中学生はコロナ禍で2020年春に休校になったために、夏休みを短縮する等の措置がとられたり、猛スピードで英語の授業が進んだりと、コロナ禍では詰め込み授業が続いた。
そんな過酷な環境下で今度は英語スピーキングテストの準備まで強要される。
しかも、スピーキング能力が公平に測れない可能性がある試験を民間委託してまでやる必要があるのか、本当に疑問だ。