書名:神田橋條治 精神科講義
著者:神田橋條治
出版年:2012年
出版社:創元社
ひとこと
精神科に限らず医療分野の雑学を知ることができる面白い本。
精神科に興味がある人に限らず、医療に興味がある人に是非おススメする本だ。
本書の内容
本書は基本的に、講演を原稿化したもの&対談で構成されている。だから読みやすい。
本書で取り上げられている内容は多岐にわたる。だから本書で面白いと思う個所がたくさんありすぎる。特に印象に残ったものをここで取り上げる。
なかでも漢方と鍼灸の話はすごく興味深い。
患者の暴力の話
患者さんに暴力をふるわれる看護婦さんは決まった人。意地悪で憎まれている看護婦はまず暴力をふるわれない。患者さんのなかの、自分自身の特徴に似た看護婦さんがやられる(本書、25頁)
(私見)
DV被害者と通じる話だと思う。
意地悪な人はまずDV被害に遭わない。
老人性精神病と診断された元経営者の爺さんの話
(概要)
元経営者の爺さんがうつになったので内科医が抗うつ剤を処方したら、抗うつ剤の副作用で食欲がなくなり車イス生活になった。食欲を出すために内科医がパーキンソン病治療薬を少量処方したら幻覚が出たので、CTをとったところ脳が委縮しているのが分かり、老人性精神病と診断された。
この時点で元経営者の爺さんが神田橋先生のところに診察に来て、薬を全部やめてみたらすっかり良くなり、歩けるようになって車イスは不要になった。
高齢者は加齢で多少脳が委縮しているのは当たり前。元経営者の爺さんは、税理士が出してきた書類に目を通してチェックを入れたりできるような状態にまで回復した。
昔の中国の偉い人が「中くらいの医者にかかるのと、全然医者にかからないのは、ちょうど同じくらいの効果がある」とおっしゃった(本書、180頁)
(私見)
老人性精神病と診断された元経営者の爺さんの話は2001年の神田橋先生の講演を収録したものである。
高齢者の認知症と薬の過剰投与の問題は最近少しずつ報道されるようになってきた。高齢者への薬物の過剰投与の問題について神田橋先生はかなり早い時点で把握されていたのに驚く。
漢方と腸内細菌とウンコの話
たとえば抗生物質を投与して漢方を投与すると、漢方が効かない場合がある。そのことで、その漢方生薬が効いていたのではなくて、漢方生薬を餌として腸内細菌が食べて出したウンコが吸収されて、それが効いていたんだということが分かる(本書、255頁)
(私見)
漢方の成分自体が効いているのではなく、漢方の成分を食べた腸内細菌が出す糞が効能を発揮している可能性があるとは興味深い。
鍼灸の話
週に一回、鍼灸をしてもらいに行っているの。(中略)その鍼灸師の先生がね、「ここにダニか何か食ってますね」って言われた。その先生が鍼灸学校の学生のときに、「蚊とかノミとかダニはツボを刺す」って習ったんだそうですが、「やっぱりツボのところを刺してますよ」って言われたの(本書、327頁)
本書によれば、鍼の名人たちは最終的には鍼をささなくなるそうである。鍼をツボに持っていって、刺さずに止める方法で鍼をするそうだ。
リストカットの話
リストカットする人たちはみんな、中心線がないのよ。それはどういうことだろうと考えた。(中略)そして気がついたのは、そうした人たちは些細な外側の刺激、誰かに何か言われたとか、成績が悪かったとか、何があったとか、ごく些細なことですぐリストカットするということ。これは、外界に振り回されやすい状態、自分が確立していないというようなことと関係している(本書、225頁)
本書によれば、神田橋先生はリストカットする人たちにエアクッションをすすめているそうだ。エアクッションに座ると、体の中心線を感じることができる。体の中心線ができてくると、リストカットが激減する傾向があるとのことである。
パニック障害の話
パニック障害と言ってきた人はお腹を診て、漢方を出すの。体調を整えていけば、発作は自然に怒らなくなりますよ(本書、259頁)
(私見)
この講演は2005年当時のもの。2005年時点ですでに、パニック障害の症状の改善には体を温めることがよいと神田橋先生は発言しているのに驚く。
なお、本書にはフラッシュバックの治療についても書かれている。
